相続レポート

  1. HOME
  2. 相続レポート
  3. 税理士でも見落とす!?不動産売却の落とし穴! その資産、買替資産じゃないですか?

税理士でも見落とす!?不動産売却の落とし穴! その資産、買替資産じゃないですか?

2024.08.01

はじめに

一昨年あたりから、私の周辺で不動産の売却案件が増加しています。

売却理由として多いのは、「相続税の納税資金確保のため」というものです。

昨今の都市部を中心とした不動産価格の高騰は、資産価値に対して課税する相続税額にそのまま反映されます。私の地元福岡でも、その影響は甚大です。

「(将来納付予定の)相続税額が増加した」⇒「納税資金が足りない」⇒「不動産を売却」

という流れです。

ここで、注意が必要なのは「不動産を売却すると所得(譲渡益)に対して譲渡所得税が発生する。」という事です。

 

【設例①】

 30年前に9000万円で購入した土地を、今年1億円で売却した。売却に際して500万円の経費が発生した。

1億円〔売価〕-9000万円〔取得費〕-500万円〔譲渡経費〕=500万円〔譲渡所得〕

500万円×(15.315%〔所得税率〕+5%〔住民税率〕)≒1,015,700円〔所得税・住民税〕

 通常であれば、このケースでは上記のように約100万円の税金が発生します。

 しかし、ここで売却した不動産が30年前の購入時に「買換え特例」の適用を受けていた場合は、納付すべき税額はもっと高額になるというお話です。

 

1、事業用資産の買替の特例とは

 

事業用の不動産(土地建物等)を譲渡して、新たに事業用の不動産を取得(買換え)した場合、「事業用資産の買換え特例」という制度が適用できます。これは、譲渡益の60~90%(概ね80%)を将来に繰り延べることにより、譲渡時の税負担を軽減するという制度です。

適用要件として、譲渡資産と買換資産の組み合わせのパターンが決められており、昔はかなりパターンがありましたが、現在は4パターンのみと縮小傾向です。

昔から一番使われているのは、10年以上国内で保有している土地・建物・構築物を譲渡して、国内の土地(300㎡以上)・建物・構築物を取得する組み合わせです。この組み合わせでは、譲渡益の80%相当額(買換資産取得価額の80%を限度)を将来に繰り延べることができます。

 

【設例②】

 保有している事業用の土地(取得価格不明)を8000万円で売却した。売却に際して400万円の経費が発生した。売却した年に、新たに事業用の土地を9000万円で購入した。

 

【設例②-1】

事業用買換え特例を使わない場合

8000万円〔売価〕-400万円〔取得費※〕-400万円〔譲渡経費〕=7200万円〔譲渡所得〕

7200万円×(15.315%〔所得税率〕+5%〔住民税率〕)=14,626,800円〔所得税・住民税〕

※取得費:取得費不明のため「売価×5%」により計算。8000万円×5%=400万円

 

【設例②-2】

事業用買換え特例を使う場合

8000万円〔売価〕-400万円〔取得費※〕-400万円〔譲渡経費〕=7200万円〔譲渡所得〕

7200万円〔譲渡所得〕×0.8=5760万円〔所得繰延額※〕

(7200万円〔譲渡所得〕-5760万円〔所得繰延額〕)×(15.315%〔所得税率〕+5%〔住民税率〕)≒2,925,300円〔所得税・住民税〕

※繰延額の判定

9000万円〔買換資産取得価額〕×0.8=7200万円〔繰延限度額〕>5760万円

∴5760万円〔繰延額〕

注)国税庁発表の算式とは異なりますが、内容は同じです。

 

特例を使わない場合は14,626,800円の税負担が発生するのに対し、特例を使うと2,925,300円の税負担で済みます。差額は実に、11,701,500円です。

しかし、この差額は免除されたわけではありません。将来に繰り延べられたにすぎません。

将来的には、負担する税額という事が重要です。

 

2、買替資産を売却した時の税金計算

土地に対して買い換え特例を使用した場合、買換資産の税務上の取得費は実際の取得費から「所得繰延額」を控除した金額となります。

初めに紹介した【設例①】を使って、ご説明します。

 

【設例①-1】

30年前に9000万円で購入した土地を、今年1億円で売却した。売却に際して500万円の経費が発生した。30年前に買換え特例は使っていない。

 上述の【設例①】と同じ。 発生税額:1,015,700円〔所得税・住民税〕

 

【設例①-2】

30年前に9000万円で購入した土地を、今年1億円で売却した。売却に際して500万円の経費が発生した。30年前に買換え特例を使った。【設例②-2】参照

1億円〔売価〕-3240万円〔取得費※〕-500万円〔譲渡経費〕=6260万円〔譲渡所得〕

6260万円×(15.315%〔所得税率〕+5%〔住民税率〕)

12,717,200円〔所得税・住民税〕

※取得費

9000万円〔実際の取得費〕-5760万円〔所得繰延額〕=3240万円〔税務上の取得費〕

 

過去に買換え特例を使っていない場合は1,015,700円の税額ですが、買替特例を使っていると今回の税額は12,717,200円となります。その差額は、11,701,500円となります。30年前に繰り延べた税金を、ここで負担することになります。

もし、過去に特例を使っている事実を失念して申告納付を行うと、このケースですと1千万円以上の過少申告という事になってしまいます。その場合、本税に加えて罰金に相当する過少申告加算税10~15%と利息に当る延滞税・延滞金を納付することになります。

 

注1)30年前は、復興特別税に当る0.315%の課税が存在しないため、実際の計算とは異なります。今回は説明のため便宜的に税率を統一しています。

注2)建物に特例を使用した場合も同様に買替資産の取得費は減額されます。土地との違いは、建物の場合、控除後の取得価額に基づき減価償却を行う事になります。

 

3、買替資産の確認方法

 過去において買替特例を利用しているかどうかは、基本的にご本人の記憶が頼りです。税理士だからと言って、売却する資産が過去に特例を使っているかを見抜くのは困難です。

 本人がご健在であればまだいいですが、対象資産が相続により取得したもので購入者本人が他界しているケースもあり得ます。

 過去に特例を使っているかどうか分からない場合の確認方法は次の通りです。

①過去の所得税申告書を確認する

 資産の購入時期は登記簿謄本を見れば確認できます。特例を使っているとすれば、購入時期の前年、当年、翌年のいずれかという事になります。(特例の適用要件が、譲渡年の前年、当年、翌年のいずれかに買替資産の購入を要しているため。)

 所得税の申告書を見れば、特例の使用の有無及び繰延額の確認ができます。ただし、数十年前の申告書が残っている可能性は極めて低いです。

②税務署に確認する

 これが一番確実です。買換え特例の記録は、数十年前のものでも税務署に残っているようです。直接聞くのが困難な場合は、税理士に依頼して聞いてもらうのもありです。

 特例適用の事実がなければ、問題なしです。特例適用の事実がある場合は、その内容を確認する必要が生じます。

③閲覧申請

 閲覧申請書を提出することで、過去の申告書の閲覧ができます。本人以外でも委任状があれば閲覧できます。内容が分かる税理士に委任するのが確実と言えます。

 

まとめ

 私の経験上の話になりますが、バブル期(昭和60年代から平成4年あたり)に購入した不動産は買換特例を使用している可能性が高いように感じます。

 売却を検討している資産が、買替特例を使用しているか不安という方は、まずは税理士等のプロにご相談ください。

カテゴリーCATEGORY

山方越志税理士事務所 
山方越志

お世話になります。税理士の山方と申します。私は税務の分野で長年にわたり、幅広い知識と経験を積み重ねてまいりました。

相続実務においては、相続税の知識はもちろんの事、周辺税法・民法・会社法・社会保険料及び不動産・金融といった実に様々な知識からの多角的な検討が必要となります。その中でも、とりわけ重要なのはご家族皆さんのお気持ちの部分だと、仕事のたびいつも痛感させられます。
税務に関するあらゆるニーズに対応し、お客様の豊かで実りある人生を実現するお手伝いをさせて頂けることを楽しみにしています。